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 『歌行燈』 従吾所好

 手足は凍つて貝になつても、(こいし)と泣くのが本望な。巌の裂目を沖へ通つて、海の果まで響いて欲しい。もう船も去〈い〉ね、潮も来い。……其のまゝで石に成つてしまひたいと思ふほど、お客様、私は、あの、」
 と乱れた襦袢の袖を銜えた、水色〈ときいろ〉映る瞼のあたり、ほんのりと薄くして、
「心ばかりで長い事、思つて居りまする人があつて。……芸も容色〈きりやう〉もないものが、生意気を云ふやうですが、……たとひ殺されても、死んでもと、心願掛けて居りました。

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