検索結果詳細


 『雛がたり』 青空文庫

 白酒《しろざけ》入れたは、ぎやまんに、柳さくらの透模様《すきもよう》。さて、お肴には何よけん、あわび、さだえか、かせよけん、と栄螺《さざえ》蛤《はまぐり》が唄になり、皿の縁に浮いて出る。白魚よし、小鯛よし、緋の毛氈に肖つかわしいのは柳鰈《やなぎがれい》というのがある。業平蜆《なりひらしじみ》、小町蝦《こまちえび》、飯鮹《いいだこ》も憎からず。どれも小さなほど愛らしく、器もいずれ可愛いのほど風情があって、その鯛、鰈《かれい》の並んだ処は、雛壇の奥さながら、竜宮を視るおもい。
 (もしもし何処で見た雛なんですえ。)
 いや、実際六《むつ》、七歳《ななつ》ぐらいの時に覚えている。母親の雛を思うと、遥かに竜宮の、幻のような気がしてならぬ。

 5/58 6/58 7/58


  [Index]