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 『木の子説法』 青空文庫

 また幕間で、人の起居《たちい》は忙しくなるし、あいにく通筋《とおりすじ》の板敷に席を取ったのだから堪《たま》らない。膝の上にのせれば、跨《また》ぐ。敷居に置けば、蹴る、脇へずらせば踏もうとする。
「ちょッ。」
 一樹の囁《ささや》く処によれば、こうした能狂言の客の不作法さは、場所にはよろうが、芝居にも、映画場にも、場末の寄席にも比較しようがないほどで。男も女も、立てば、座《すわ》ったものを下人《げにん》と心得る、すなわち頤《あご》の下に人間はない気なのだそうである。

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