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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「その書生さんの時も、本宅の旦那様、大喜びで、御酒《ごしゅ》は食《あが》らぬか。晩の物だけ重詰にして、夜さりまた掻餅でも焼いてお茶受けに、お茶も土瓶も持って行け。
 言わっしゃったで、一風呂敷と夜具包を引背負《ひっしょ》って出向いたがよ。
 へい、お客様前刻《せんこく》は。……本宅でも宜しく申してでござりました。お手廻りのものや、何や彼や、いずれ明日《みょうにち》お届け申します。一餉《ひとかたけ》ほんのお弁当がわり。お茶と、それから臥《ふせ》らっしゃるものばかり。どうぞハイ緩《ゆっく》り休まっしゃりましと、口上言うたが、着物は既《すんで》に浴衣に着換えて、燭台の傍へ……こりゃな、仁右衛門や私《わし》が時々見廻りに行く時、皆《みんな》閉切ってあって、昼でも暗《くれ》えから要害に置いてあった。……先《せん》に案内をした時に、かれこれ日が暮れたで、取り敢ず点して置いたもんだね。そのお前様《めえさま》、蝋燭火の傍に、首い傾げて、腕組みして坐ってござるで、気に成るだ。

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