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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 後には子供一人、其時が、戸長様の帳面前年紀六ツ、親六十で児が二十なら徴兵はお目こぼしと何を間違へたか届が五年遅うして本当は十一、それでも奥山で育つたから村の言葉も碌には知らぬが、怜悧な生れで聞分があるから、三ツづゝあひかはらず鶏卵を吸はせられる汁も、今に療治の時残らず血になつて出ることと推量して、べそを掻いても、兄者が泣くなといはしつたと、耐へて居た心の内。
 娘の情で内と一所に膳を竝べて食事をさせると、沢庵の折をくはへて隅の方へ引込むいぢらしさ。
 弥よ明日が手術といふ夜は、皆寐静まつてから、しく/\蚊のやうに泣いて居るのを、手水に起きた娘が見つけてあまり不便さに抱いて寝て遣つた。

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