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 『半島一奇抄』 青空文庫

 椿《つばき》が一輪、冷くて、燃えるようなのが、すっと浮いて来ると、……浮藻《うきも》――藻がまた綺麗なのです。二丈三丈、萌黄色《もえぎいろ》に長く靡《なび》いて、房々と重《かさな》って、その茂ったのが底まで澄んで、透通って、軟《やわらか》な細い葉に、ぱらぱらと露を丸く吸ったのがの中に映るのですが――浮いて通るその緋色《ひいろ》の山椿が……藻のそよぐのに引寄せられて、の上を、少し斜《ななめ》に流れて来て、藻の上へすっと留まって、熟《じっ》となる。……浅瀬もこの時は、淵《ふち》のように寂然《しん》とする。また一つ流れて来ます。今度は前の椿が、ちょっと傾いて招くように見えて、それが寄るのを、いま居た藻の上に留めて、先のは漾《ただよ》って、別れて行く。

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