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『夜行巡査』
青空文庫
「なに、だいじょうぶだ。あれんばかしの酒にたべ酔ってたまるものかい。ときにもう何時だろう」
夜は更けたり。天色沈々として風騒がず。見渡すお堀端の往来は、三宅坂にて一度尽き、さらに一帯の樹立ちと相連なる煉瓦屋《れんがおく》にて
東京
のその局部を限れる、この小天地寂として、星のみひややかに冴え渡れり。美人は人ほしげに振り返りぬ。百歩を隔てて黒影あり、靴を鳴らしておもむろに来たる。
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