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 『人魚の祠』 青空文庫

「それよりも、見事《みごと》なのは、釣竿の上下《あげおろし》に、縺《もつ》るゝ袂、翻る袖で、翡翠《かはせみ》が六つ、十二の翼を翻すやうなんです。
 唯《と》、其のい手も見える、莞爾《につこり》笑ふ面影さへ、俯向くのも、仰ぐのも、手に手を重ねるのも其の微笑《ほゝゑ》む時、一人の肩をたゝくのも……莟がひら/\開くやうに見えながら、厚い硝子窓を隔てたやうに、まるつ切《きり》、声が……否《いや》、四辺《あたり》は寂然《ひつそり》して、ものの音も聞えない。

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