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 『春昼』 泉鏡花を読む

 悚然として、向直ると、突当りが、樹の枝から梢の葉へ搦んだやうな石段で、上に、茅ぶきの堂の屋根が、目近な一朶の雲かと見える。棟に咲いた紫羅傘の花の紫も手に取るばかり、峰のみどりの黒髪にさしかざされた装の、其が久能谷の観音堂。
 我が散策子は、其処を志して来たのである。爾時、これから参らうとする、前途の石段の真下の処へ、殆ど路の幅一杯に、両側から押被さつた雑樹の中から、真向にぬつと、大な馬のがむく/\と涌いて出た。

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