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 『春昼』 泉鏡花を読む

 蛇の矢倉と言ふのは、此の裏山の二ツ目の裾に、水のたまつた、むかしからある横穴で、わツといふと、おう――と底知れず奥の方へ十里も広がつて響きます。水は海まで続いて居ると申伝へるでありますが、如何なものでございますかな。」
 雨が二階家の方からかゝつて来た。音ばかりして草も濡らさず、裾があつて、路を通ふやうである。人の霊が誘はれたらう。雲の黒髪、桃色衣、菜種の上を蝶を連れて、庭に来て、陽炎と並んで立つて、しめやかに窓を覗いた。

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