検索結果詳細


 『半島一奇抄』 青空文庫

 目の前へ――が、向う岸から両岐《ふたつ》に尖《とが》って切れて、一幅《ひとはば》裾拡《すそひろ》がりに、風に半幅を絞った形に、薄い脚が立った、と思うと、真黒《まっくろ》な面《つら》がぬいと出ました。あ、この幽艶《ゆうえん》清雅な境へ、凄《すさ》まじい闖入者《ちんにゅうしゃ》! と見ると、ぬめりとした長い面が、およそ一尺ばかり、左右へ、いぶりを振って、ひゅっひゅっとを捌《さば》いて、真横に私たちの方へ切って来る。鰌《どじょう》か、鯉《こい》か、鮒《ふな》か、鯰《なまず》か、と思うのが、二人とも立って不意に顔を見合わせた目に、歴々《ありあり》と映ると思う、その隙もなかった。

 62/129 63/129 64/129


  [Index]