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 『歌行燈』 従吾所好

 と言の中に、膝で解く、其の風呂敷の中を見よ。土佐の名手が画いたやうな、紅い調は立田川、月の裏皮、表皮。玉の砧を、打つや、うつゝに、天人も聞けかしとて、雲井、と銘ある秘蔵の塗胴。老の手捌き美しく、錦に梭〈ひ〉を、投ぐるやう、さら/\と緒を緊めて、火鉢の火に高く翳す、と……呼吸をのんで驚いたやうに見て居たお千は、思はず、はつと両手を支いた。
 芸の威厳は争はれず、此の捻平を誰とかする、七十八歳の翁、辺見秀之進。近頃孫に代〈よ〉を譲つて、雪叟とて隠居した、小鼓取つて、本朝無双の名人である。
 いざや、小父者は能役者、当流第一の老手、恩地源三郎、即是。

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