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『婦系図』 青空文庫
と聞くや否や、鸚鵡返《おうむがえ》しに力が入った。床の間にしっとりと露を被《かつ》いだ矢車の花は、燈《ひ》の明《あかり》を余所《よそ》に、暖か過ぎて障子を透した、富士見町あたりの大空の星の光を宿して、美しく活《いか》っている。
見よ、河野が座を、斜《ななめ》に避けた処には、昨日《きのう》の袖の香を留めた、友染の花も、綾《あや》の霞も、畳の上を消えないのである。
真砂町、と聞返すと斉《ひと》しく、屹とその座に目を注いだが、驚破《すわ》と謂わば身をもって、影をも守らん意気組であった。
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