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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 得三は人形の前に衝《つ》と進みて、どれ、鳥渡《ちよつと》。上臈の被《かづき》を引き上げて、手燭を翳して打見遣り、「むゝ可々《よし/\》。と独言《ひとりごと》。旧《もと》の如く被《かづき》を下して、「後刻《のち》に高田が来る筈だから、此の方は彼《あれ》にくれて遣つて、金にするとしてまづ可しと。ところで下枝の方は、我《お》れが女房にして、公債や鉄道株、ありたけの財産を、我《お》れが名に書き替へてト大分旨い仕事だな。しかし、下枝めがまた悪く強情で始末にをへねえ。手を替へ、品を替へ、撫つ抓《つね》りつして口説いても応《うむ》と言はないが、東京へ行懸けに、梁《うつばり》に釣して死ぬ様な目に逢はせて置いたから、些《ちつと》は応へたらう。其に本間の死んだことも聞かして遣つたら、十に九つは此方《こつち》の物だ。何うやら探偵《いぬ》が嗅ぎ附けたらしい。何も彼も今夜中に仕上げざなるめえ。其代り翌日《あした》ッから御大尽だ。どれ、ちよびと隠妾《かくしづま》の顔を見て慰まうか。と予てより下枝を幽閉せる、座敷牢へ赴くとて、廻廊に廻り出でて、欄干に凭り懸れば、此処はこれ赤城家第一の高楼《たかどの》にて、屈曲縦横の往来を由井が浜まで見通しの、鎌倉半面は眼下にあり。

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