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 『天守物語』 泉鏡花を読む

  時に閃電《せんでん》す。光の裡《うち》を、衝《つ》と流れて、胡蝶《こてふ》の彼処《かしこ》に流るゝ処《ところ》、殆ど天井を貫きたる高き天守の棟に通ずる階子《はしご》。――侍女等、飛ぶ蝶の行方につれて、ともにそなたに目を注ぐ。
女郎花 あれ、夫人《おくさま》がお帰りでございますよ。
  はら/\とその壇の許に、振袖、詰袖、揃つて手をつく。階子《はしご》の上より、先づ水色の衣《きぬ》の褄、裳《もすそ》を引く。すぐに蓑を被《かつ》ぎたる姿見ゆ。長《たけ》なす黒髪、片手に竹笠、半ば面《おもて》を蔽ひたる、美しく気高き貴女、天守夫人、富姫。

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