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『義血侠血』 青空文庫
公判は予定の日において金沢地方裁判所に開かれたり。傍聴席は人の山を成して、被告および関係者水島友は弁護士、押丁《おうてい》らとともに差し控えて、判官の着席を待てり。ほどなく正面の戸をさっと排《ひら》きて、躯高《たけたか》き裁判長は入り来たりぬ。二名の陪席判事と一名の書記とはこれに続けり。
満廷粛として水を打ちたるごとくなれば、その靴音は四壁に響き、天井に〓《こた》えて、一種の恐ろしき音を生《な》して、傍聴人の胸に轟きぬ。
威儀おごそかに渠らの着席せるとき、正面の戸は再び啓きて、高爽《こうそう》の気を帯び、明秀の容《かたち》を具えたる法官は顕われたり。渠はその麗しき髭を捻りつつ、従容として検事の席に着きたり。
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