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 『義血侠血』 青空文庫

 欣弥の眼は陰《ひそか》に始終恩人の姿に注げり。渠ははたして三年《みとせ》の昔天神橋上月明《げつめい》のもとに、臂《ひじ》を把《と》りて壮語し、気を吐くこと虹のごとくなりし女丈夫なるか。その面影もあらず、いたくも渠は衰えたるかな。
 恩人の顔は蒼《あおざ》めたり。その頬は削《こ》けたり。その髪は乱れたり。乱れたる髪! その夕べの乱れたる髪は活溌溌《かつはつはつ》の鉄拐《てっか》を表わせしに、今はその憔悴を増すのみなりけり。

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