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 『義血侠血』 青空文庫

「そのほうは全く金子を奪られた覚えはないのか。虚偽《いつわり》を申すな。たとい虚偽をもって一時を免《のが》るるとも、天知る、地知る、我知るで、いつがいつまで知れずにはおらんぞ。しかし知れるの、知れぬのとそんなことは通常の人に言うことだ。そのほうも滝の糸といわれては、ずいぶん名代の芸人ではないか。それが、かりそめにも虚偽《いつわり》などを申しては、その名に対しても実に愧ずべきことだ。人は一代、名は末代だぞ。またそのほうのような名代の芸人になれば、ずいぶん多数《おおく》の贔屓もあろう、その贔屓が、裁判所においてそのほうが虚偽を申し立てて、それがために罪なき者に罪を負わせたと聞いたならば、ああ、糸はあっぱれな心掛けだと言って誉めるか、喜ぶかな。もし本官がそのほうの贔屓であったなら、今日限り愛想を尽かして、以来は道で遭おうとも唾もしかけんな。しかし長年の贔屓であってみれば、まず愛想を尽かす前に十分勧告をして、卑怯千万な虚偽の申し立てなどは、命に換えてもさせんつもりだ」

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