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 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫

 町屋の屋根に隠れつつ、巽《たつみ》に展《ひら》けてがある。その反対の、山裾《やますそ》の窪《くぼ》に当る、石段の左の端に、べたりと附着《くッつ》いて、溝鼠《どぶねずみ》が這上《はいあが》ったように、ぼろを膚《はだ》に、笠も被《かぶ》らず、一本杖《いっぽんづえ》の細いのに、しがみつくように縋《すが》った。杖の尖《さき》が、肩を抽《ぬ》いて、頭の上へ突出ている、うしろ向《むき》のその肩が、びくびくと、震え、震え、脊丈は三尺にも足りまい。小児《こども》だか、侏儒《いっすんぼうし》だか、小男だか。ただ船虫の影の拡《ひろが》ったほどのものが、靄に沁み出て、一段、一段と這上る。……

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