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『星あかり』 泉鏡花を読む
冷い石塔に手を載せたり、湿臭い塔婆を掴んだり、花筒の腐水に星の映るのを覗いたり、漫歩をして居たが、藪が近く、蚊が酷いから、座敷の蚊帳が懐しくなつて、内へ入らうと思つたので、戸を開けようとすると閉出されたことに気がついた。
それから墓石に乗つて推してみたが、原より然うすれば開くであらうといふ望があつたのではなく、唯居るよりもと、徒らに試みたばかりなのであつた。
何にもならないで、ばたりと力なく墓石から下りて、腕を拱き、差俯向いて、ぢつとして立つて居ると、しつきりなしに蚊が集る。毒虫が苦しいから、もつと樹立の少ない、広々とした、うるさくない処をと、寺の境内に気がついたから、歩き出して、卵塔場の開戸から出て、本堂の前に行つた。
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