検索結果詳細


 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 出家は、さて日が出口から、裏山の其の蛇の矢倉を案内しよう、と老実やかに勧めたけれども、此の際、観音の御堂の背後へ通り越す心持はしなかつたので、挨拶も後日を期して、散策子は、やがて庵を辞した。
 差当り、出家の物語について、何んの思慮もなく、批評も出来ず、感想も陳べられなかつたので、言はれた事、話されただけを、不残鵜呑みにして、天窓から詰込んで、胸が膨れるまでになつたから、独り静に歩行きながら、消化して胃の腑に落ちつけようと思つたから。

 6/444 7/444 8/444


  [Index]