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 『義血侠血』 青空文庫

 賃銭の廉《やす》きがゆえに、旅客はおおかた人力車を捨ててこれに便りぬ。車夫はその不景気を馬車会社に怨みて、人と馬との軋轢《あつれき》ようやくはなはだしきも、わずかに顔役の調和によりて、営業上相干《あいおか》さざるを装えども、折に触れては紛乱を生ずることしばしばなりき。
 七月八日の朝、一番発の馬車は乗り合いを揃えんとて、奴はその門前に鈴を打ち振りつつ、
「馬車はいかがです。むちゃに廉くって、腕車《くるま》よりお疾うござい。さあお乗んなさい。すぐに出ますよ」

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