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 『歌行燈』 従吾所好

「あい、親方は出ずとも可いのさ。私の方で入るのだから。……ねえ、女房〈おかみ〉さん、そんなものぢやありませんかね。」
 と些と笑声が交つて聞えた。
 女房は、これも現下〈いま〉の博多節に、うつかり気を取られて、釜前の湯気に朦として立つて居た。……浅葱の襷、白い腕を、部厚な釜の蓋に一寸載せたが、円髷をがつくりさした、色の白い、歯を染めた中年増。此の途端に颯と瞼を赤うしたが、竈〈へツつひ〉の前を横ツちよに、かた/\と下駄の音で、亭主の膝を斜交〈はすつか〉ひに、帳場の銭箱へがつちりと手を入れる。

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