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『絵本の春』 青空文庫
その草双紙である。一冊は、夢中で我が家の、階子段《はしごだん》を、父に見せまいと、駆上る時に、――帰ったかと、声がかかって、ハッと思う、……懐中《ふところ》に、どうしたか失《う》せて見えなくなった。ただ、内へ帰るのを待兼ねて、大通りの露店の灯影《ともしび》に、歩行《ある》きながら、ちらちらと見た、絵と、かながきの処は、――ここで小母さんの話した、――後のでない、前の巳巳巳の話であった。
私は今でも、不思議に思う。そして面影も、姿も、川も、たそがれに油を敷いたように目に映る。……
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