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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 映る手なんざ、水へ突込んでるように、畝ったこの筋までが蒼白く透通って、各自《てんで》の顔は、皆その熟した真桑瓜に目鼻がついたように黄色く成ったのを、見合せて、呼吸《いき》を詰める、とふわふわと浮いて出て、その晩の座がしらという、一番強がった男の膝へ、ふッと乗ったことがあるんですね。
 わッというから、騒いじゃ怪我をしますよ、と私が暗い中で声を掛けたのに、猫化だ遣つけろ、と誰だか一人、庭へ飛出して遁げながら喚いた者がある。畜生、と怒鳴って、貴僧《あなた》、危いの何のじゃない!

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