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 『歌行燈』 従吾所好

 爾時〈そのとき〉、漲る心の張に、島田の元結弗〈ふツ〉つと切れ、肩に崩るゝ緑の黒髪。水に乱れて、灯に揺めき、畳の海は裳に澄んで、塵も留めぬ舞振かな。
 「(源三郎)……我子は有らん、父大臣〈おとゞ〉もおはすらむ……」
 と声が幽んで、源三郎の地謡ふ節が、フト途絶えようとした時であつた。

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