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 『絵本の春』 青空文庫

 大正…年…月の中旬、大雨《たいう》の日の午《うま》の時頃から、その大川に洪水した。――水が軟《やわらか》に綺麗で、流《ながれ》が優しく、瀬も荒れないというので、――昔の人の心であろう――名の上へ女をつけて呼んだ川には、不思議である。
 明治七年七月七日、大雨の降続いたその七日七晩めに、町のもう一つの大河が可恐《おそろし》い洪水した。七の数が累《かさ》なって、人死《ひとじに》も夥多《おびただ》しかった。伝説じみるが事実である。が、その時さえこの川は、常夏《とこなつ》の花に《べに》の口を漱《そそ》がせ、柳の影は黒髪を解かしたのであったに――

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