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 『海神別荘』 華・成田屋

舞台転ず。しばし暗黒、寂寞(せきばく)として波濤の音聞ゆ。やがて一個(ひとつ)、花白く葉の青き蓮華燈籠(れんげどうろう)、漂々として波に漾える(ただよえる)がごとく顕る。続いて花の赤き同じ燈籠、中空(なかぞら)のごとき高処に出づ。また出づ、やや低し。なお見、少しく高し。その数五個(いつつ)になる時、累々たる波の舞台を露(あらわ)す。美女。毛巻島田(けまきしまだ)に結う。白の振袖、綾の帯、紅(くれない)の長襦袢、胸に水晶の数珠をかけ、襟に両袖を占めて、波の上に、雪のごとき竜馬(りゅうめ)に乗せらる。およそ手綱の丈を隔てて、一人下髪(さげがみ)の女房。旅扮装(たびいでたち)。素足、小袿に褄端折りて、片手に市女笠を携え、片手に蓮華燈籠を堤ぐ。第一点の燈(ともしび)の影はこれなり。黒潮騎士、美女の白竜馬をひしひしと囲んで両側二列を造る。およそ十人。皆崑崙奴(くろんぼ)の形相。手に手に、すくすくと槍を立つ。穂先白く晃々(きらきら)として、氷柱倒倒(さかしま)に黒髪を縫う。あるものは燈籠を槍に結ぶ、灯の高きはこれなり。あるものは手にし、あるものは腰にす。
女房  貴女(あなた)、お草臥(くたびれ)でございましょう。一息、お休息(やすみ)なさいますか。
美女  (夢見るようにその瞳を〓(みひら)く)ああ、(歎息す)もし、誰方(どなた)ですか。・・・私の身体(からだ)は足を空に、(馬の背に裳(もすそ)を掻緊む(かいしむ))倒(さかさま)に落ちて落ちて、波に沈んでいるのでしょうか。

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