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 『春昼』 泉鏡花を読む

 と三人、一人々々声をかけて通るうち、流のふちに爪立つまで、細くなつて躱したが、尚大まる皮の風呂敷に、目を包まれる心地であつた。
 路は一際細くなつたが、却つて柔かに草を踏んで、きり/\はたり、きり/\はたりと、長閑な機の音に送られて、やがて仔細なく、蒼空の樹の間漏る、石段の下に着く。
 此の石段は近頃すつかり修復が出来た。(従つて、爪尖のぼりの路も、草が分れて、一筋明らさまになつたから、もう蛇も出まい、)其時分は大破して、丁ど繕ひにかゝらうといふ折から、馬は此の段の下に、一軒、寺といふほどでもない住職の控家がある、其の背戸へ石を積んで来たもので。

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