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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 私も長い旅行です。随分どんな処でも歩行《ある》き廻ります考えで。いざ、と言や、投出して手を支くまでも、短刀を一口《ひとふり》持っています――母の記念《かたみ》で、峠を越えます日の暮なんぞ、随分それがために気丈夫なんですが、謹《つつしみ》のために桐油に包んで、風呂敷の結び目へ、緊乎《しっかり》封をつけて置くのですが、」
 「やはり、おのずから、その、抜出すでございますか。」
 「否《いいえ》、これには別条ありません。盗人《ぬすっと》でも封印のついたものは切らんと言います。尤も、怪物《ばけもの》退治に持って見えます刃物だって、自分で抜かなければ別条はないように思われますね。それに貴僧《あなた》、騒動《さわぎ》の起居《たちい》に、一番気がかりなのは洋燈《ランプ》ですから、宰八爺さんにそういって、こうやって行燈に取替えました。」

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