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『龍潭譚』 青空文庫
とばかりありて、その姿またかくれ去りつ。見えずなればなほなつかしく、たとへ恐しきものなればとて、かりにもわが優しき姉上の姿に化したる上は、われを捕へてむごからむや。さきなるはさもなくて、いま幻に見えたるがまことその人なりけむもわかざるを、何とて言《ことば》はかけざりしと、打泣きしが、かひもあらず。
あはれさまざまのものの怪しきは、すべてわが眼のいかにかせし作用なるべし、さらずば涙にくもりしや、術こそありけれ、かなたなる御手洗《みたらし》にて清めてみばやと寄りぬ。
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