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『龍潭譚』 青空文庫
あはれさまざまのものの怪しきは、すべてわが眼のいかにかせし作用なるべし、さらずば涙にくもりしや、術こそありけれ、かなたなる御手洗《みたらし》にて清めてみばやと寄りぬ。
煤けたる行燈《あんどう》の横長きが一つ上にかかりて、ほととぎすの画と句など書いたり。灯をともしたるに、水はよく澄みて、青き苔むしたる石鉢の底もあきらかなり。手に掬ばむとしてうつむく時、思ひかけず見たるわが顔はそもそもいかなるものぞ。覚えず叫びしが心を籠めて、気を鎮めて、両の眼を拭ひ拭ひ、水に臨む。
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