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 『国貞えがく』 青空文庫

 と軽い返事で、身軽にちょこちょこと茶の間から出た婦《おんな》は、下膨れの色で、真中から鬢を分けた濃い毛の束ね髪、些と煤びたが、人形だちの古風な顔。満更の容色《きりょう》ではないが、紺の筒袖の上被衣《うわっぱり》を、浅葱の紐で胸高にちょっと留めた甲斐甲斐しい女房ぶり。些と気になるのは、この家あたりの暮向《くらしむ》きでは、これがつい通りの風俗で、誰も怪しみはしないけれども、畳の上を尻端折、前垂で膝を隠したばかりで、湯具《ゆのぐ》をそのままの足を、茶の間と店の敷居で留めて、立ち身のなりで口早なものの言いよう。

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