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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 倉瀬は鋭き眼にて、ずらりと此家を見廻し、「はゝあ、これは大分古い建物だ。宛然《まるで》画に描いた相馬の古御所といふ奴だ。なるほど不思議がありさうだ。今に見ろ、一番正体を現して遣るから。と何やら意味ありげに呟きけり。
 さて泰助が東京より此《この》鎌倉に来りたるは、左の如き仔細のありてなり。
 今朝東京なる本郷病院へ、呼吸《いき》も絶々《たえ/゛\》に駈込みて、玄関に着くとそのまゝ、打倒れて絶息したる男あり。年は二十二三にして、扮装《みなり》は好《よ》からず、容貌《かほかたち》太《いた》く憔《やつ》れたり。検死の医師の診察せるに、こは全く病気の為に死したるにあらで、何にかあるらむ劇しき毒に中《あた》りたるなりとありけるにぞ、棄て置き難しと警官が不取敢《とりあへず》招寄せたる探偵はこの泰助なり。

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