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 『絵本の春』 青空文庫

 荒海の磯端《いそばた》で、肩を合わせて一息した時、息苦しいほど蒸暑いのに、颯《ざあ》と風の通る音がして、思わず脊筋も悚然《ぞっ》とした。……振返ると、白浜一面、早や乾いた蒸気《いきれ》の裡《なか》に、透《すき》なく打った細い杭《くい》と見るばかり、幾百条とも知れない、おなじような蛇が、おなじような状《さま》して、おなじように、揃って一尺ほどずつ、砂の中から鎌首を擡《もた》げて、一斉に空を仰いだのであった。その畝《うね》る時、歯か、鱗か、コツ、コツ、コツ、カタカタカタと鳴って響いた。――洪に巻かれて落ちつつ、はじめて柔《やわらか》い地を知って、砂を穿《うが》って活《い》きたのであろう。

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