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 『海神別荘』 華・成田屋

美女  最後に一目、故郷(ふるさと)の浦の近い峰に、月を見たと思いました。それぎり、底へ引くように船が沈んで、私は波に落ちたのです。ただ幻に、その燈籠の様な蒼い影を見て、胸を離れて遠くへ行く、自分の身の魂か、導く鬼火かと思いましたが、ふと見ますと、前途(ゆくて)にも、あれあれ、遥(はるか)の下と思う処に、月が一輪、おなじ光で見えますもの。
女房  ああ、(望む)あの光は。いえ。月影ではございません。
美女  でも、貴方(あなた)、雲が見えます、雪のような、空が見えます、瑠璃色の。そして、真白(まっしろ)な絹糸のような光が射します。

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