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 『婦系図』 青空文庫

 もっとも学者だと云って、天気の好《い》い日に浅草をぶらついて、奥山を見ないとも限らぬ。その時いかなる必要があって、玉乗の看板を観ると云う、奇問を発するものがあれば、その者愚ならずんば狂に近い。鰻屋の前を通って、好い匂がしたと云っても、直ぐに隣の茶漬屋へ駈込みの、箸を持ちながら嗅《か》ぐ事をしない以上は、速断して、伊勢屋だとは言憎い。
 主税とても、ただ通りがかりに、露店《ほしみせ》の古本の中にあった三世相が目を遮ったから、見たばかりだ、と言えばそれまでである。けれども、渠は目下誰かの縁談に就いて、配慮しつつあるのではないか。しかも開けて見ている処が――夫婦相性の事――は棄置かれぬ。

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