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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 お話につけて申しますが、実は手前もこの黒門を潜りました時は、草に支えて、しばらく足が出ませんでございました。
 それと申すが、先ず庭口と思う処で、キリキリトーンと、よほどその大轆轤の、刎釣瓶を汲上げますような音がいたす。
 尤も曰くづきの邸ながら、貴下《あなた》お一方は先ずともかくもいらっしゃる。人が住めば水も要ろうで、何も釣瓶の音が不思議というでは、道理上、こりゃないのでありまするが、婆さんに聞きました心積り、学生の方が自炊をしてお在《いで》といえば、土瓶か徳利に汲んで事は足りる、と何となく思ってでもおりました所為か、そのどうも水を汲む音が、馴れた女中衆《おなごしゅ》でありそうに思われました。

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