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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 ござったかな、と思いながら、擽ったいような御門内の草を、密《そっ》と踏んで入りますと、春さきはさぞ綺麗でございましょう。一面に紫雲英《げんげ》が生えた、その葉の中へ伝わって、断々《きれぎれ》ながら、一条《ひとすじ》、蒼ずんだ明るい色のものが、這ったように浮いたように落ちています。上へさした森の枝を、月が漏る影に相違はなさそうなが、何となく婦人の黒髪、その、丈長く、足許に光るようで。
 変に跨ぎ心地が悪うございますから、避《よ》けて通ろうといたしますと、右の薄光りの影の先を、ころころと何か転げる、忽ち顔が露れたようでございましたっけ、熟《よ》く見ると、兎なんで。

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