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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 主もおわさば聞し召せ、かくの通りの青道心。何を頼みに得脱成仏の回向いたそう。何を力に、退散の呪詛を申そう。御姿を見せたまわば偏《ひとえ》に礼拝を仕る。世にかくれます神ならば、念仏の外他言はいたさぬ。平に一夜、御住居の筵一枚を貸し給われ……」
 ――旅僧は爾時、南無仏と唱えながら、漣の如き杉の木目の式台に立向い、かく誓って合掌して、やがて笠を脱いで一揖したのであった。――
 「それから、婆さんに聞きました通り、壊れ壊れの竹垣について手探りに木戸を押しますと、直ぐに開きましたから、頻《しきり》に前刻《さっき》の、あの、えへん! えへん! 咳《せきばらい》をしながら――酷《ひど》くなっておりますな――芝生を伝わって、夥しい白粉の花の中を、これへ。お縁側からお邪魔をいたしました。

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