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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 「大空の雲を当てに何処となく、海があれば渡り、山があれば越し、里には宿って、国々を歩行《ある》きますのも、詮ずる処、或意味の手毬唄を……」
 「手毬唄を。……如何な次第でございます。」
 「夢とも、現とも、幻とも……目に見えるようで、口にはいえぬ――そして、優しい、懐しい、あわれな、情のある、愛の籠った、ふっくりした、しかも、清く、涼しく、悚然《ぞっ》とする、胸を掻〓《かきむし》るような、あの、恍惚《うっとり》となるような、まあ例えて言えば、芳しい清らかな乳を含みながら、生れない前《さき》に腹の中で、美しい母の胸を見るような心持の――唄なんですが、その文句を忘れたので、命にかけて、憧憬《あこが》れて、それを聞きたいと思いますんです。」

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