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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
この数分時の言《ことば》の中《うち》に、小次郎法師は、生れて以来、聞いただけの、風と水と、鐘の音、楽、あらゆる人の声、虫の音、木の葉の囁きまで、稲妻の如く胸の裡に繰返し、なおかつ覚えただけの経文を、颯と金字紺泥に瞳に描いて試みたが、それかと思うのは更に分らぬ。
「して、その唄は、貴下《あなた》お聞きに成ったことがございましょうか。」
「小児《こども》の時に、亡くなった母親が唄いましたことを、物心覚えた最後の記憶に留めただけで、どういうのか、その文句を忘れたんです。
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