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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 泰助は見るに忍びず。いでまづ此嬢《このこ》を救ひ出さむ、家の案内は心得たれば背負うて遁げむに雑作《ざうさ》は無しと幕を掲げて衝《つ》と出でたり。不意に驚き、「あれ。と叫びて、泰助声をも懸けざるに、身を翻して、人形の被《かづき》を潜つて入るよと見えし、人は消えて見えずなりぬ。あまりの不思議に呆気に取られ、茫然として眼をぱち/\、「不思議だ。不思議と泰助は、潜《ひそか》かに人形の被《かづき》の端《はし》へ片手を懸けたる折こそあれ。部屋の外にどや/\と跫音して、二三人が来れる様子に、南無三宝飛び退《すさ》りて再び日蔽の影に潜《ひそ》みぬ。

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