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 『婦系図』 青空文庫

 早やここから歯をスーと吸って、先刻《さっき》からお待ち申して……はちと変だ。
 さては誰も物申《ものもう》に応うるものが無かったのであろう。女中《おんな》は外出《そとで》で? お蔦は隠れた。……
 無人《ぶにん》で失礼。さあ、どうぞ、と先方《さき》は編上靴《あみあげぐつ》で手間が取れる。主税は気早に靴を脱いで、癇癪紛《かんしゃくまぎれ》に、突然二階へ懸上る。段の下の扉《ひらき》の蔭から、そりゃこそ旦那様。と、にょっと出た、お源を見ると、取次に出ないも道理、勝手働きの玉襷《たまだすき》、長刀《なぎなた》小脇に掻込《かいこ》んだりな。高箒《たかぼうき》に手拭を被《かぶ》せたのを、柄長に構えて、逆上《のぼ》せた顔色。

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