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 『人魚の祠』 青空文庫

 白い踵《くびす》を揚げました、階段を辷り下りる、と、後から、ころ/\と転げて附着《くツつ》く。さあ、それからは、宛然《さながら》人魂《ひとだま》の憑ものがしたやうに、毛が赫《かつ》と赤く成つて、草の中を彼方《あつち》へ、此方《こつち》へ、たゞ、伊達巻で身についたばかりのしどけない媚《なまめ》かしい寝着《ねまき》の婦《をんな》を追〓《おひまは》す。婦《をんな》はあとびつしやりをする、背筋を捩《よぢ》らす。三俵法師《さんだらぼふし》は、裳《もすそ》にまつはる、踵を嘗める、刎上る、身震《みぶるひ》する。
 やがて、沼の縁へ追迫られる、と足の甲へ這上る三俵法師《さんだらぼふし》に、わな/\身悶《みもだえ》するい足が、あの、釣竿を持つた三人の手のやうに、ちら/\と宙に浮いたが、するりと音して、帯が辷ると、衣ものが脱げて草に落ちた。

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