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 『龍潭譚』 青空文庫

 筧《かけい》の水はそのたらひに落ちて、溢《あふ》れにあふれて、地の窪《くぼ》みに流るる音しつ。
 蝋の灯は吹くとなき山おろしにあかくなり、くらうなりて、ちらちらと眼にずる雪なす膚《はだえ》白かりき。
 わが寝返る音に、ふとこなたを見返り、それと頷く状《さま》にて、片手をふちにかけつつ片足を立てて盥のそとにいだせる時、颯《さ》と音して、烏よりは小さき鳥の真白きがひらひらと舞ひおりて、うつくしき人の脛《はぎ》のあたりをかすめつ。そのままおそれげもなう翼を休めたるに、ざぶりと水をあびせざま莞爾とあでやかに笑うてたちぬ。手早く衣《きぬ》もてその胸をば蔽へり。鳥はおどろきてはたはたと飛去りぬ。

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