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 『春昼』 泉鏡花を読む

 一座の霊地は、渠等のためには平等利益、楽くしい、花園である。一度詣でたらむほどのものは、五十里、百里、三百里、筑紫の海の果からでも、思ひさへ浮んだら、束の間に此処に来て、虚空に花降る景色を見よう。月に白衣の姿も拝まう。熱あるものは、楊柳の露の滴を吸ふであらう。恋するものは、優柔な御手に縋りもしよう。御胸にも抱かれよう。はた迷へる人は、緑の甍、朱の玉垣、金銀の柱、朱欄干、瑪瑙の階、花唐戸。玉楼金殿を空想して、鳳凰の舞ふ龍の宮居に、牡丹に遊ぶ麒麟を見ながら、獅子王の座に朝日影さす、桜の花を衾として、明月の如き真珠を枕に、勿体なや、御添臥を夢見るかも知れぬ。よしそれとても、大慈大悲、観世音は咎め給はぬ。

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