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 『婦系図』 青空文庫

 ちと、恐怖《おずおず》の形で、先ず玄関を覗いて、書生が燈下に読書するのを見て、またお邪魔に、と頭から遠慮をして、さて、先生は、と尋ねると、前刻御外出。奥様《おくさん》は、と云うと、少々御風邪の気味。それでは、お見舞に、と奥に入ろうとする縁側で、女中《おんな》が、唯今すやすやと御寐《おやすみ》になっていらっしゃいます、と云う。
 悄々《すごすご》玄関へ戻って、お嬢さんは、と取って置きの頼みの綱を引いて見ると、これは、以前奉公していた女中《おんな》で、四ッ谷の方へ縁附《かたづ》いたのが、一年ぶりで無沙汰見舞に来て、一晩御厄介になる筈で、お夜食が済むと、奥方の仰《おおせ》に因り、お嬢さんのお伴をして、薬師の縁日へ出たのであった。

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