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 『人魚の祠』 青空文庫

 やがて、沼の縁へ追迫られる、と足の甲へ這上る三俵法師《さんだらぼふし》に、わな/\身悶《みもだえ》する白い足が、あの、釣竿を持つた三人の手のやうに、ちら/\と宙に浮いたが、するりと音して、帯が辷ると、衣ものが脱げて草に落ちた。
「沈んだ船――」と、思はず私が声を掛けた。隙《ひま》も無しに、陰気な音が、だぶん、と響いた……
 しかし、綺麗に泳いで行く。美《うつくし》い肉の背筋を掛けて左右へ開く水の姿は、軽い羅《うすもの》を捌《さば》くやうです。其の膚の白い事、あの合歓花《ねむのはな》をぼかした色なのは、予《かね》て此の時のために用意されたのかと思ふほどでした。

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