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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 一体その娘の家は、娘《おやこ》二人、どっちの乳か、媼さんが一人、と子だけのしもた屋で、しかし立派な住居でした。その親《おふくろ》というのは、私は小児心《こどもごころ》に、唯歯を染めていたのと、鼻筋の通った、こう面長な、そして帯の結目を長く、下襲《したがさね》か、蹴出しか、褄をぞろりと着崩して、日の暮方には、時々薄暗い門に立って、町から見えます、山の方を視《なが》めては悄然《しょんぼり》彳んでいたのだけ幽に覚えているんですが、人の妾だともいうし、本妻だともいう、何処かの藩侯の落胤《おとしだね》だともいって、些とも素性が分りません。

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